今年2月の香港から始まった、シャネル「モバイルアート」。その東京開催のスタートを飾るプレイベントが開催されました。最初ネットで知った時は携帯のアートかと思ったのですが、そうではなかった。ではモバイルアートとはなんぞや。どうにもよくわからない。これは行くしかない。ということで、夜の東京に着地したザハ・ハディッドデザインの会場を訪問。
人生初のザハ!体験。有機的な曲線はプラスチック製の内臓に入るような感覚。まずは入り口で真っ黒なMP3プレーヤを渡されます。音楽と共に聞こえてくる「では、立ち上がって、左に進んでください」というコトバ。そこから40分のアート体験が始まります。
映画「エイリアン」でギーガーがデザインした宇宙船を、3008年度版にしたかのようなバイオデザインのパビリオン。そこで展開されているのは、シャネルの「キルティングバッグ」をモチーフに、20組の国際的アーティストが制作したインスタレーション群。中にはシャネルとの関係が全く読めなかったり、シャネルの存在を否定するような作品もあるのですが、かえってそこがブランドの懐の深さを感じさせるから面白い。
階段を上ったり、洞穴のような暗いスペースを体験したり、突如コンテナが出現したり…。観客はプレーヤから流れる不思議な女性の声に導かれながら、未来の住居のようなパビリオン内を進んでいきます。あまりにも伸びやかな壁の曲面は、実際に体感すべきだと思い、なでたり、手を滑らせたり、隠された空調の吹き出し口を発見したりと、べったらべったらと触ってしまいました。そんな人は他にいませんでした。係の方すいません。
MP3プレーヤから聞こえるナレーションのバックに流れる、アンビエント音楽と効果音が素晴らしい。実はここからすでに作品が始まっていたのです。(Stephan Crasneanscki・フランス)
では以下に主要な作品の紹介とカンタンな感想など。
段ボールの中で繰り広げられる裸の女性のシャネル争奪戦。
(Blue Noses・ロシア)ファイバーを使って発光させているような赤と白のストライプの壁。
(Daniel Buren・フランス)牛革でできたマスクを装着した男のポートレート。
(David Levinthal・アメリカ)コンテナの中にキルティングの革で作られた架空のリビングの小宇宙。そのむせかえるような革の匂いといったら!
(Fabrice Hyber・フランス)暗室の床の隙間からジオラマのように広がるヨーロッパの街の景色。よく見ると窓の人が動いている。
(Leandro Erlich・アルゼンチン)泡のような光る球体の集合物の上に革バッグの材料が折り重なっている作品。まるでラグジュアリーマーケットの構造を図式しているかのような、
(Lee Bul・韓国)キルティングバッグの特徴的なレザーチェーンを「縛り」に活用した、美しくエロティックイメージ群
(荒木経惟・日本)誰もが持つ理想と現実のギャップを「夢の埋葬」というテーマで祭壇に仕立てた写真による彫刻。写真の中に立てかけられた本に薔薇族を発見。
(Pierre et Gilles・フランス)巨大なキルティングバックの中に設置されたコンパクト。鏡は液晶スクリーンになっていて、女性の狙撃手たちが、標的となったシャネルのバッグに次々と銃弾を撃ち込んで行く様を描きます。着弾するたびに濃厚なファンデーションの香りがたちこめます。
(Sylvie Fleury・スイス)すり鉢のようなスクリーンに投影されたアニメーションを上から鑑賞する作品。分解された昆虫のパーツが次々と奈落の底に落ちて行く。
(束芋・日本)背中にタトゥーを彫り込まれた豚の剥製と、毛だらけの豚革で作られたキルティングバッグ。高級バッグが何故豚の革ではいけないんだ、という疑問を投げかけて来る作品。
(Wim Delvoye・ベルギー)紙に書かれた希望が木にくくりつけられ、実となり育っていくというインストラクションアート。
(Yoko Ono・日本)
ファッションとアートの衝突を無料で見せるというシャネルのビジョン。そこで得られるのは「シャネルを購入することは、単に高額でクォリティが高いクラフト製品を手にすることだけではなく、アートの最前線にもつながっているんだ」という感覚。このイベントはシャネルオーナーに「アートシーンを支えてるのは私たちシャネルファンなのよ!」という新しい満足感を与えていると感じました。また「全身シャネル」というコトバが含んできたネガティブな部分も、巡業の度に各都市で吹き飛ばしていくでしょう。ブランドとアーティストと顧客が皆喜ぶ。これはもうWinWInWInじゃないかと。そんなマーケティングの頭の良さにも触れたイベントでした。
上記のような事を全く考えなくても面白いうえに無料なので、会期中に是非参加を。要予約だそうです。
Chanel Mobile Art Tokyo
http://mobileart.excite.co.jp/