銀座メゾンエルメスの「フォーラム」で開催されている「みえないかかわり」イズマイル・バリー展が素晴らしすぎて、3回通ってしまった。
1度目は全体を見ただけで終了。しかし展示の意味がわかったようでわからず悶々とした日を過ごす。そのままでいるのも嫌なので、再び訪問。ここからいつものようにiPadでのメモ書きを開始。学芸員さんにもいろいろ話を聞いてみた。3度目も同様。
その現場メモをここに記します。かの有名なコピー「記憶は消える、記録は残る」ってやつですよ奥さん。
全体のテーマは「出現と消失」。目の前にはっきりと存在するように見えても、ふとしたきっかけで消え去る事象がある。時間も、映像も、記憶もしかり。
その映ろいと儚さが、ピンホールカメラの内部のような暗い空間で、ミニマムかつ鮮烈に表現されていた。
では、現場で記録したメモをご覧ください。

「出現 Apparition」
3分の映像作品である。
強い逆光の中で白トビしている紙。後ろに手をかざすと影の中に像が浮かび上がってくる。それはチュニジア独立記念日の風景。撮影されたのは1956年、当時まだ生まれていなかった作家が父から譲り受けた写真である。
画像の出現と消滅を繰り返す作家の手の動きが、父親の記憶とエモーショナルにつながっている。

「ボールの跡 Ball Trace」
砂浜に残った軌跡は波が来ると何事もなかったかのように消えてしまう。そんな誰もが覚えている切ない風景を描写するため、ボールが転がった跡を砂の上に描く。波にかき消される直前の瞬間を表現しているのだろうか。
儚く危うい、若い日の記憶を留める作品。 眺めていると涙が出そうになる。

作品に使われたボールがエレベーター裏に展示されている。これは作家の実家の物置にあったもの。年代を感じさせる汚れは子供時代の記憶とつながっているのだろうか。
ちょっと探さないとわからない場所にあるが注目である。

「みえないかかわり Invisible Concern」
本展覧会の表題作。見落としそうな部屋の片隅に展示してある。ビデオカメラに撮影されているのは黒い板。上に乗ったゲル状の液体が太い線を描く。
壁の細長い窓に液晶文字が流れ、その様が液体に反射している。

撮影された映像はプロジェクタで壁に投影される。流れる文字は昨年の台風19号を報じるニュースのテロップ。台風が関東を襲ったのは昨年10月で展覧会の設営中のこと。
作家はニュースの文字を流すことで被災地とのかかわりを作ろうとしている。
ちなみにここまでの説明は展覧会では一切なされておらず、パンフレットにも記載されていない。では何故記事化できるのかというと、前述の通りエルメスフォーラムの学芸員さん達に聞いたからである。
どの方にも質問に的確に答えていただき、作家が作品に込めた想いや裏話などを知ることができた。
現代美術は見ただけでは理解できないものが多い。本展覧会には他にも様々な作品が展示されている。疑問があれば恥ずかしがらず学芸員さんに聞いてみることをお勧めする。
この展覧会は、どの作品からも深く詩的な感覚と共感・発見を得られた素晴らしい体験となった。
会期はあと2日間しかないが、ぜひ体験すべきだと思う。
「みえないかかわり」イズマイル・バリー展 13日月曜日まで
Invisible Concern by Ismaïl Bahri Le Forum
2019.10.18(金)~ 2020.1.13(月・祝)
月~土 11:00~20:00(最終入場は19:30まで)
日 11:00~19:00(最終入場は18:30まで)
入場料:無料
会場: 銀座メゾンエルメス フォーラム(東京都中央区銀座5‐4‐1 8階 TEL: 03-3569-3300)
https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/191018/
売り上げランキング: 1,617