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鉛筆物語(全話完結)


鉛筆物語が完結したので、ここに全話を置いておきますね。自分で作っておいてなんですけど、僕はこの話が大好きです。この鉛筆はあなたでしょ、と妻が言うんですけど、自分ではよくわかりません。でも、もしかしたら僕に似た、誰かのために、クリスマスのお届け物として置いておきます。お楽しみいただければ幸いです。

【鉛筆物語】

あるところに、一本の鉛筆がいました。彼の持ち主は、ひとりの男の子。毎日塾に通ういそがしい小学生です。

鉛筆のしごとは、勉強のためにはたらくこと。文字を書いたり、円を描いたり、四角を描いたり、計算をしたり。鉛筆はまいにち、いっしょうけんめい勉強のことだけを手伝ってきました。

ある日のことです。男の子が家の階段をかけあがっているとき、鉛筆がぽろりと落ちてしまいました。ちゃぽん!落ちた先は、金魚の住む水そうのなか。「やぁ、お客さんだ」金魚が言いました。「やぁ、こんにちは」鉛筆が言いました。

すいすいと泳ぐ金魚を見て、鉛筆が言いました。「君は泳げるんだね」「君も泳げるよ。知らなかったのかい?」鉛筆は自分が動けることをはじめて知りました。

泳ぐのはかんたんではありません。でも金魚がじょうずにおしえてくれたのといっしょうけんめい練習したのでだんだんとうまくなってきました。すいすい、すいすい。自由に泳げるようになってきました!

鉛筆は、金魚に泳ぎを教えてもらったお礼として、水そうの石ころに「ありがとう。鉛筆より」という字を書いてあげました。

水そうの中から、壁に貼ってあるカレンダーが見えました。その写真にはとてもきれいな景色が広がっていました。「金魚さん、あれはどこの景色なの?すごくきれいだよ」金魚は答えました。「あれは『海』だよ」「『海』っていうんだ。きれいだな。行ってみたいなぁ」

鉛筆があまりにも長いあいだ海の景色をながめるので家の中のことをよく知っている金魚は『海』に行く方法を考えてくれました。まずは尾ひれを使って鉛筆を水そうの外に押し出して、ゴミ箱にポトリ。「がんばれよぅ」金魚はそう言いました。

次の朝、鉛筆はゴミぶくろの中で目覚めました。「よいしょっと」ふくろを破って顔を出してみるとそこはゴミをたくさんのせて走る車のうえでした。やがて車は川のうえの橋にさしかかりました。「川に飛び込めば、『海』に出られるんだよ」金魚は鉛筆にそう教えてくれました。

「あれが川だな。よぉし」鉛筆は力をふりしぼってゴミを運ぶ車からジャンプしました。鉛筆はくるくると回転しながら川の中に飛び込みました。ばしゃーん!ごぼぼ、ごぼぼ、ごぼぼぼぼ。川の流れは早く、鉛筆は思うように泳げません。

ごつごつ、ぐるぐる、がんがんがん。石に頭をぶつけた鉛筆は気を失ってしまいました。あれからどれぐらい時間がたったでしょう。誰かが気を失っていた鉛筆を起こしてくれました。目をゆっくり開けてみると、一匹の大きな魚がじっと鉛筆を見つめていました。

「変わった魚だな。食えるのかな」と魚が言いました。「僕は鉛筆だよ。魚じゃないんだ」と鉛筆が答えました。あれだけ激しかった流れもすっかりやんでいます。どうやらここは川ではなく、もっと広い場所のようです。

「魚さん、教えてください。ここは『海』なの?」鉛筆は思わず大きな声を出して聞いてみました。「ばかなことをいうやつだな。海に決まっているじゃないか」魚はそう言葉を残して泳いで行ってしまいました。海!海!海! 鉛筆はやっと海にたどりついたのです!

とてもうれしくなった鉛筆はあちこち泳ぎまわり、たくさんのきれいな光景に出会うことができました。小さな魚から大きな魚、トンネルのようなどうくつに、きらきらひかるさんごしょう。どれも鉛筆の想像をはるかに超えた、信じられないほどすばらしいながめでした。

「これを金魚さんに見せてあげたいなぁ」ふと鉛筆がそう思ったとき、たくさんの何かがものすごいいきおいで近づいてくるけはいがしました。「いったいなんだろう?」と鉛筆が首をかしげた時です。

ざああああああああああああああああ!!!!とつぜん、何千匹、いや、何万匹といういわしの大群が鉛筆のすぐ近くを通り過ぎていきました。早い流れにぐるぐると巻き込まれた鉛筆は、長いあいだ気を失ってしまいました。

ここは暑い国のちいさな島。男の子と犬が、砂浜で追いかけっこをして遊んでいます。「おーい、待ってくれよう」追いかける男の子のはるか前を、おおきな犬が元気よく走っています。

とつぜん犬が、何かを見つけて立ち止まりました。追いついた子供が見ると、それは気を失った鉛筆でした。「これは珍しいね。外国の鉛筆だよ!」子供は大喜びで、鉛筆を家に持って帰りました。

誰もが寝静まった夜、鉛筆は目を覚ましました。「ここはどこだろう。もう海じゃないんだな」そう思った鉛筆は、これまで見てきたたくさんの景色のことを思い出していました。海の底に沈んだ船に、大きな亀。ぷかぷかと遊んでいるくらげたち。怖い顔をした深海魚に、面白い顔の魚たち。

月明かりの中で夜空を見上げていると、つぎからつぎへと、いろんな思い出がわき出てきました。ふと近くを見ると、男の子は絵が好きらしくたくさんの画用紙がおいてありました。その横には鉛筆けずりがありました。鉛筆は、ゆっくりと生まれて初めての行動を開始しました。

次の日の朝のことです。目が覚めた男の子は、画用紙が床いっぱいに広がっているのを見て驚きました。「海だ、海だ、海の絵だ!」床いちめんの、すべての画用紙に鉛筆で描かれたうつくしい海の絵が描かれていました。

「すごくきれいな絵だ… でもだれが描いたんだろう」そのかたわらには、鉛筆けずりの横で使えないほど短くなった鉛筆がころがっていました。そして鉛筆は、もう二度と動くことはありませんでした。

だれが描いたのかわからない海の絵は島で話題になり、美術館が展覧会を開きました。他の島からもたくさんの人が見に来て、絵はさらに有名になりました。「でも、誰が描いたんだろう…」みんながそう思いましたが、作者のことを知っている人間は一人もあらわれませんでした。

だれが描いたのかわからない海の絵は、やがて世界でも有名になりました。絵はがきやポスターやカレンダーになりたくさんの家にかざられるようになりました。

ある日、いつものように泳いでいた金魚は目の前のカレンダーが変わっている事に気づきました。これまでずっと使われていた海の写真は鉛筆が描いた海の絵に変わっていました。

その絵をじっと見つめていた金魚は、絵のはしっこに、あるものを見つけてさいしょはおどろき、次にほほえみながら思わずつぶやきました。「鉛筆くん、ほんとうに海に行ったんだな…」

その絵のはしっこには、ちいさな金魚の絵と『ありがとう。鉛筆より』という字が書いてありました。

おしまい。

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