TVC054:
“Le Sacrifice”
by Lowe
for Stella Artois
【CMストーリー】
寂れた庭で一本のビールを見つめる4人の男。何かに怯えながら、しかし飲みたいという欲望にかられる4人。突如、一人がひったくるようにビールを飲んでしまう。そして彼は…
【コピー】
ステラアルトワ。間違いなく象です。(※説明は下に)
Stella Artois, Reassuringly Elephants.
【CMアイデアカテゴリーと解説】
理由のある狂った行動+時代を変える+引用する
ビールの高級ブランド、ステラ・アルトワの新作です。しかしこれまでの歴史ドラマとはちょっと雰囲気が違う。何やら不思議な音楽と映像、一度見ただけでは何が起きてるのかさっぱりわからない…過去の作品達とは何かが違う…と思って調べてみると、なんと監督はアワードウィニングディレクターのフランク・バジェン(Sony PS2 “Mountain“の監督)でした。
題名は「犠牲」そのコトバはわかる。しかし最初見た時はなんのこっちゃ、ストーリーも何も、さっぱり意味不明。何度かくりかえして見て、やっと話が飲み込めました…
ステラ・アルトワのCMメッセージはいつも同じ、「間違いなく高くつきます」です。そこから考えると意味がわかってきます。…このCMの中でのステラ・アルトワは、飲むと自分の姿が「何か」に変わってしまうビールなのです。それが「何」に変わってしまうのかは、わからない。どうやら最初には5人の人間がいたようで、初めの男はバイオリンに変身してしまったらしい。次の男は蟻が生まれてくる卵に…そして3人目はダチョウに変わってしまう。そうなることがわかってるのに、自分を犠牲にするほど高くつくのに、飲みたくなるという恐ろしいCMなのですね。どう見ても狂った行動なのですが、理由はわかる。
そんなシュルレアリスムな世界を描くには、シュルレアリスム映画のイメージを引用するのが一番。とフランク・バジェン達は思ったのでしょう、映像は時代を変えて1900年代初頭の無声映画の雰囲気が引用されています。「吸血鬼ノスフェラトゥ」のF.W.ムルナウや「アンダルシアの犬」のルイス・ブニュエルな印象のイメージが炸裂。訳がわからない映像なんだけど、どこかで見た感じ、懐かしい感じに見えるように慎重に仕上げられています。
さらに音楽はクララ・ロックモアのテルミン演奏による、チャイコフスキーの「感傷的なワルツ ヘ短調」ですよ…もうのたうちまわるほどアンダーグラウンドの、どメジャー感覚で作られてます!うーしびれる!完璧すぎる…え?テルミンをご存じでない?では映画「テルミン」も見てらっしゃらないのですね。ここで勉強してきてください〜!
しかし…どうしてここまで視聴者に歴史的な知識が求められる知的な遊びが、広告という世界で可能になっているのでしょう…悔しすぎる…けど負けませんよ!
※:あと最後に一言…コピーの部分、
ステラアルトワ。間違いなく象です。
Stella Artois, Reassuringly Elephants.
は、いつもなら
ステラアルトワ。間違いなく高くつきます。
Stella Artois, Reassuringly Expensive.
のはずです。わざと間違えてますね…
副題にも「シュルレアリストの歴史」と書いてあるぐらいで、
最後までわけがわかりません…もちろん計算ずくで。
【予測されるアドアイデア】
ステラアルトワの価値は、思わず自分の存在を犠牲にしてしまうほど高い。
“Le Sacrifice” (60″)
Agency: Lowe
Creatives: George Prest/ Johnny Leathers
Production Company: Gorgeous Enterprises
Director: Frank Budgen
DP: Frank Budgen
Sound Production Company: Andy Humphreys/ 750 MPH
Music: Clara Rockmore/”Valse Sentimentale” by Tchaikovsky