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「太陽」を見る。


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銀座シネパトスにて映画「太陽」を見る。

この映画はロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督がヒトラー、レーニンを主題としてきた「20世紀の権力者」全4作シリーズの中の第3部に位置づけられている。

たいへん静かだが、力強い映画。テーマは「人間としての昭和天皇」。神の子孫として崇められていた昭和天皇が終戦を迎え、やがて自らの神格性を否定するに至り、いわゆる「人間宣言」を行うまでの半年間を丹念に描いている。その間に幾度となく会談を行ったマッカーサーは昭和天皇の作られたイメージと実際の人間的な姿に大きな差異を感じ、自らを「I」と言わず「The Emperor」と呼ぶ姿に戸惑いつつも高い外国語会話力に感嘆し、やがて彼の見識と知性に敬意を示すようになる。

映画が進行するにつれて、観客もマッカーサー将軍と同様に、形式張ってアンタッチャブルで不可思議かつ不可侵な存在、すなわち現人神としての昭和天皇から、人の温かみや子供っぽいユーモアさえ感じさせる人間天皇へとその見方が変わっていく。これがロシア人監督ソクーロフ氏の狙いである事は明かなのだが、日本人としてこの映画を見る時、いまだに尾を引きずるあの戦争が、政権を掌握した軍部が「天皇の神格性」というイメージを盾にしながら影で暴走した結果であることを思い出し、その暗い衝動が現在の外交・靖国問題にまで引き継がれていることを感じて慄然としてしまうのである。運命と政治によって引き起こされた昭和天皇の哀しみは、常に日本の良心の痛みと重なるのだ。その意味において現代的な問題にも通じる普遍的な価値を持った映画であり、ロシア映画だというのにとてもリアルな日本を感じる映画であった。

ロシアのスタジオで、監督自らがキャメラを回したという静謐な映像美には圧倒させられる。タルコフスキーを彷彿とさせる端正なカメラワーク、そして昭和天皇に扮したイッセー尾形、侍従長を演じた佐野史郎、脇を固める名優達のきめ細やかな演技が、重厚なタペストリーのように歴史の一頁を織り上げ、皇后役である桃井かおりのカジュアルな演技の中に突如現れる凄みのあるワンカットが映画を締めくくる。映画全体を通して、もったいぶった演出も派手な高揚感もなく一定のリズムで淡々と描かれているが、それは天皇の人間性を描くための伏線でしかない。この映画を鑑賞して地味だとしか思わなかった観客は、監督のメッセージの本質を見落としてしまっているのだ。

知性があり、政治によって隔離されるほどの強大な力を持ち、しかし子供っぽく、その存在は悲劇的。そこには大友克洋による一大叙事詩「アキラ」で描かれたナンバーズ達の姿が重なる。政治と運命に翻弄された昭和天皇の苦悩は、それだけで充分に映画的である。

1年以上も前に完成したこの映画が日本で公開された事は快挙と言えよう。日本人では決して描けなかった日本は、我々が見てこそ意味がある。まさしくA MUST SEE。映画館での鑑賞をお勧めしたい。ちなみにこの映画は銀座シネパトス単館上映。現在大混雑状態なので観に行く方は早めの入館を。

▼映画サイト

http://taiyo-movie.com/

佐野史郎氏の映画出演日記

http://www.kisseido.co.jp/column/sokurov.html

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